謎の器官「ファシア」の正体
ファシアとはいったいなんなのか。北里大学医療衛生学部教授で大学院医療系研究科長の高平尚伸さんが解説する。
「ファシアというのは、筋肉や内臓を包む薄い網目状の『結合組織』のこと。筋肉を包む膜は『筋膜』と呼ばれますが、筋膜はファシアの一種です(左の図を参照)。ファシアは、コラーゲンをはじめとした線維状のタンパク質などからできています」
鶏肉の皮をはがすとき、同時に白い膜のようなものがくっついてくることがあるが、あれがファシアである。
高平さんによれば、ファシアの重要な役割の一つが、筋肉がなめらかに動くのをサポートすることだ。ファシアが健全な状態、つまり、柔らかく、弾力性があり、すべりがよい状態だと、筋肉のあいだで力が伝わりやすく、私たちは筋肉を円滑に動かすことができる。
しかし、ストレスや運動不足、あるいは、同じ姿勢をずっととりつづけることなどによってファシアの状態が「悪化」することがある。
「ファシアが弾力性を失い、硬くなった状態で放置されてしまうと、ファシアどうし、あるいはファシアと筋肉がくっついて、筋肉が動かしづらくなります。やがてそれが積み重なってしこりなどになり、ついには痛みや原因不明の不調につながるのです」
倦怠感やむくみも、ファシアが原因かも
もう一つ注意すべきは、ファシアが体の内側の広い範囲で「つながっている」ということ。
「ファシアはそれぞれ独立して筋肉を包んでいるわけではなく、つながりあってお互いに影響を与えています。だから、ある部分のファシアが硬くなったことで、べつの部分の不調につながるケースもあるのです」
ファシアの状態の悪化は、腰痛、ひざ痛、首痛、肩痛、肩や首のこりばかりでなく、場合によっては頭痛や眼精疲労、倦怠感や冷え、むくみ、手のしびれなどにつながることもある。
裏を返せば、ファシアを伸ばしたり、ゆるめたりすることで、原因がよくわからなかったこれらの不調が改善する可能性があるということだ。高平さんがつづける。
「たとえば、腰痛のうち約85%は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの明確な原因が特定できない『非特異的腰痛』だと言われます。そうした『原因がよくわからない痛み』に悩んでいる人は、ファシアに働きかけることで痛みがとれる可能性がおおいにあります」
ファシアゆるゆる度チェック
となると、まず気になるのは、「自分のファシアが硬くなっているかどうか」だ。ファシアの状態は、こんな方法で調べることができる。東京医科大学整形外科准教授の遠藤健司さんが言う。
「『ファシアゆるゆる度チェック』です(上の図を参照)。まず壁に背中をつけて立ちます。おしり、かかと、肩、後頭部が壁につくよう注意してください。その状態で手のひらを下に向けて両腕を水平に広げ、ゆっくり上げていきます。このとき、腕が45度より小さな角度までしか上がらない場合、ファシアが硬くなっていると考えられます。
60度よりも大きく上がる人はファシアが健全な状態にあるということで、この場合、ファシアに働きかけても痛みやこりが改善する可能性が低いのでご注意ください」
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