睡眠不足は身体にどう影響するか?

寝つきが悪かったり、眠りが浅かったり、成人の5人に1人が何らかの不眠症状に悩んでいると言われている今、不眠は珍しいことではないかもしれません。ですが、この不眠状態が続いたら、仕事や学習のパフォーマンスに悪影響を及ぼすだけでなく、身体と心にさまざまな変化をもたらします。では、具体的にどのようなことを引き起こすのでしょうか。専門機関や大学の研究によって報告されている寝不足と健康リスクの関係について、睡眠コンサルタントの友野なおさんに詳しく解説していただきました。

学生時代の不眠がうつ病を引き起こす?

現在、成人の5人に1人、高齢者では3人に1人が睡眠に関する何かしらの悩みを抱えている時代です。

それらの悩み(睡眠障害)がその後の精神状態に悪い影響を及ぼすことも科学的に指摘されています。ジョンホプキンズ大学が卒業生1053名を平均して34年間、最長で45年間追跡調査したところ、学生時代に不眠を訴えた人は、その後うつ病を発症するリスクが高まっていたという報告がされています(※1)。

皆さんも、寝不足だったり、よく眠れなかった日の翌日はイライラしやすくなったり、感情のコントロールが難しいと感じたり、ちょっとしたミスが多くなってしまったりといった経験はイギリスのあると思います。

イギリスの非営利研究機関「ランド・ヨーロッパ」の研究では、睡眠時間が7~8時間より短くなるほどに、あるいは長くなるほどに、うつ病の罹患率が高くなるという報告をしています。さらに、1日の平均睡眠時間が6時間を下回る人は、睡眠時間が7~9時間の人と比較して、死亡率が13%増加することが明らかになっているのです(※2)。

実際に、睡眠障害や短時間睡眠が身体の疾患に及ぼす影響についても数多く報告がされています。国内の45地区に居住する約11万人を15年間調査した睡眠時間と心血管疾患との関係について調べた研究の結果では、睡眠時間が10時間以上の長時間睡眠は、7時間の睡眠に比べて、男性の全脳卒中死亡で1.7倍、脳梗塞死亡で1.6倍、全循環器疾患死亡で1.6倍、循環器疾患、及びがん以外の死亡で1.7倍、全死亡で1.6倍と死亡リスクが増加。

女性でも全脳卒中死亡で1.7倍、脳梗塞死亡で2.4倍、全循環器疾患死亡で1.5倍、循環器疾患及びがん以外の死亡で2.0倍、全死亡で1.6倍と、男性同様に死亡リスクの増加が認められるという結果が報告されました。

十分に睡眠がとれていないと認知症の発症も

一方、4時間以下の短時間睡眠は、理想の睡眠時間である7時間睡眠に比べて、女性で虚血性心疾患の死亡リスクが2.3倍、循環器疾患及びがん以外の死亡リスクは男女ともに1.5倍、全死亡リスクは男女ともに1.3倍と、やはり死亡リスクの増加が報告されています(※3)。

さらに、2015年にコロンビア大学の研究で、1041名の65歳以上の高齢者を3年にわたり追跡調査した結果では、「十分に睡眠がとれていない」人は認知症の発症リスクが睡眠がとれている人と比較して1.2倍高く、「日中に眠気を感じる」人は1.24倍も高いことが分かりました(※4)。

もう少し身近なところでは、米カリフォルニア大学が18~55歳までの健康な男女164名を対象に行った研究があり、1日の睡眠時間が6時間以下の場合、7時間以上眠っている人に比べて風邪を引くリスクが4.24倍高くなるという研究報告があります(※5)。慢性的な睡眠不足は免疫機能を落とすということは明らかになっている事実なのです(※6)。

このように、これまでの睡眠疫学の研究から睡眠障害や短時間睡眠は、高血圧・糖尿病・肥満などの生活習慣病やがん、精神疾患、認知症などの罹患率や死亡率を高めることが科学的に証明されています。個人差があるとはいえ、一般的には総合的に判断すると、やはり7時間程度の睡眠時間を確保することが理想と考えられます。

「疲労」は脳が発する3大アラームのひとつ

睡眠時間が不十分であると、心身の疲労が解消されにくくなります。疲労は痛みや発熱とならんで、脳が発する3大アラームのひとつ。身体からの「休んで」という警告サインといえます。

痛みや熱があれば病院へ行ったり、休んだりしますが、疲れでは病院へ行くどころか休むことにさえ罪悪感を覚えてしまい、辛くても強行突破してしまう方も多いの

疲労に気づかないと(あるいは気づかないふりをしていると)知らず知らずのうちにどんどん蓄積して、ある日突然、深刻なトラブルに見舞われるという可能性もあるので注意が必要です。「その日の疲れはその日のうちに解消」がベスト。疲労は蓄積するので、適切な睡眠時間を確保し、良質な睡眠をとってこまめにケアすることが必要です。

日々やらなくてはいけないことに追われ、「時間がない」が口癖になっていませんか? やらなければいけないことの時間をつくるために、睡眠時間を削る選択をしていませんか?

良質な睡眠は昼間のパフォーマンス力の基盤となり、心身の健康を維持するための土台となる習慣です。意欲的に活動し、元気で前向きに充実した日々、そして未来を送りたいと願うのならば、毎日の睡眠を大切にすることは欠かせません。

無理やり睡眠時間を削ることは、健康、生産性、能力など、あらゆる「損失」につながることであり、日常生活にもさまざまな弊害をもたらすため、賢い選択ではありません。ご自身の心身の健康を保つために、7〜9時間の睡眠時間を確保できるよう意識してみてください。