年齢にあった必要な筋肉の強化法

年を取ると誰もが経験するのが、ちょっとした段差での「つまずきや転倒」。これらの原因として大きいのが加齢による筋力の低下ですが、整形外科専門医でフィットネストレーナーでもある吉原潔氏によれば、「どの筋肉が弱っているからこうなるのか、それらを防ぐためにはどんな筋トレが必要なのか」がわかれば、対処の仕方が見えてくるそうです。
そこで本稿では、老化による体力低下を感じる"あるある"の場面を例に取りながら、吉原氏が適切な筋トレの方法を指南します。
必要なのは、症状に応じた「筋肉の強化」

全身の筋肉は、加齢とともに弱ってきます。特定の場所の筋肉だけが弱ることはあまりないですが、通常は、使っていないところから順に弱くなっていきます。

「体力が落ちたなぁ」と感じるのは、その断片的な症状。気づいたら修正することが大切です。

そこで本稿では、体力が落ちたと感じる、"あるあるの場面"をピックアップして、それを克服するための「ドクターズ筋トレ」をご紹介します。

実際に患者さんを診察するときにもそうしていますが、どの筋肉が弱っているからこうなるのか、それらを防ぐためにはどんな筋トレが必要なのかをお伝えします。

フィットネストレーナーとしての知識があるおかげで、単に「関節を守るために、体重を落としたほうがいいですね」と言うだけでなく、「こうすると体重管理ができますよ」とか、「この部分の筋肉を強化するために、この運動をやってください」と具体的に示すことができるのは私の強みだと自負しています。

以下にご紹介する筋トレは、私が日常、患者さんと接してよく聞くお悩みと、その解決法として、だれもができそうな種目を選びました。どれも1回30秒しかやりません。

"段差でつまずく"なら「つま先上げ」でスネを鍛える

●こんな方に

・街を歩いていて、ちょっとした段差でつまずく

・階段の段差を見誤って、つま先が引っかかって転びそうになる

危うく転倒しそうになると「誰かに見られていたかな?」なんて恥ずかしくなって、思わず周りをキョロキョロ見渡してしまいますよね。

つまずきや転倒は加齢とともに増えてきますが、若い方であっても疲れていると起こりやすくなります。そして、運が悪いと骨折などの大けがにつながりかねない重大な事象です。

●原因は大腰筋・前脛骨筋(ぜんけいこつきん)の衰え

原因は大きく2つあり、1つは大腰筋が衰えることで足が高く持ち上げられず、すり足になることです。そして、もう1つは、前脛骨筋と呼ばれるスネの骨(脛骨)の外側に位置する筋肉の衰えです。

前脛骨筋は、つま先を持ち上げたり、足首の動きを安定させたりする働きを持ちます。

ここの筋力が低下すると、足首が安定せずに歩きにくさを感じ、歩く姿勢も悪くなります。足も疲れやすくなるので、長い時間続けて歩くことが難しく、ねんざや転倒のリスクが高まります。

●「つま先上げ」を30秒間でくり返す

「つま先上げ」は、数少ない前脛骨筋を鍛えられる筋トレの1つ。立って行っても、イスに座って行ってもかまいません。背すじを伸ばして両足をそろえ、かかとを床につけて、つま先を上げます。

なるべく高く上げて1秒止めることが効果を高めるポイントです。

“ふんばりがきかない”なら「前のめりでガマン」

●こんな方に

・濡れた路面で「ツルッ!」と滑って、踏みとどまれず転んだ

・段差でつまずき「おっとっと!」と前のめりになって、そのまま転倒した

このような場面で、バランスを失っても転ばないのは、高齢になるほど至難の業です。

筋力が十分な若いうちは、滑ったり、バランスをくずしたりしたとしても、そこからふんばって体勢を整えることができるのですが、筋力が低下した高齢者は、それができずに転倒することが増えます。

●原因は中臀筋・大腿四頭筋・足趾屈筋群の衰え

ふんばるときに大切なのは、中臀筋や大腿四頭筋で、もも上げや足裏キックで鍛えられます。もう1つ欠かせないのは、足趾屈筋群(そくしくっきんぐん)という、足の指の筋肉の強化ランジは、下肢を鍛える代表的な筋トレのメニューです。

両足は肩幅程度に開き、背すじを伸ばして立ちます。上体をまっすぐにしたまま、片方の足を斜めに1歩前に出して股関節とひざを曲げていきます。ひざが90度になるくらいまで曲げたらゆっくりと元の姿勢に戻ります。

上半身をまっすぐにしたまま、しっかりと腰を落とすことで筋トレ効果が高まります。バランスがとりづらい場合は、壁などで体を支えて行っても問題ありません。

上体を前に倒すやり方もありますが、背中が丸まる原因になるので、あえて「上半身をまっすぐにしたまま」としました。

足を1歩前に出す幅で運動の強度が変わり、幅が大きいほど強度が強くなります。

(出所:『30秒で体力がつく スゴイもも上げ』より)