寝たきりになると1週間で15%の筋肉が減る
「若い頃に1か月間入院したんですけど、退院してズボンをはいたらブカブカでした。寝ているだけで、やせるのですね」
【イラスト】1回たったの30秒で体力がつく「スゴイもも上げ」
そう言うのは、今は40代後半の女性。残念ながら……寝ているだけでやせたには違いありませんが、筋肉も減ってしまい、やせ衰えてしまったのです。
× 寝ているだけで、きれいにやせた
〇 寝ているだけだから、筋肉が短期間で一気に減り、やせ衰えた
実際は、こういうことです。
寝たきりになると、真っ先に減るのは、手足の筋肉(脂肪も減ります)。絶対安静(寝たきり)の状態になると、1週間で10~15%、3~5週間でなんと50%もの筋肉が失われてしまうのです。
例えば、10kgの荷物を軽々と持ち上げることができる筋力を持っていた人が病気になって3週間程度、ほぼベッドの上で生活したとします。すると、回復後には5kgの荷物を持ち上げるのがやっと、という状態になってしまうということです。なぜ、こんなに急速に筋肉が落ちてしまうと思いますか?
犯人は「脳」です。脳はとても出来のいい臓器で、それぞれの臓器に優先順位をつけ、生きるために絶対に必要な臓器はなんとしてでも守ろうとします。実は、筋肉は優先順位が低いのです。筋肉は人体で最大の熱産生臓器で、筋肉を維持するには、常にエネルギーを必要とします(医学的には、筋肉は臓器として位置づけられています)。
病気などで、栄養からエネルギーがとれないときは、まず脂肪がエネルギーとして使われます。それと同時に、体のエネルギー消費は「省エネモード」に切り替えられます。
筋肉は、たくさんのエネルギーが必要な"燃費の悪い"臓器ですから、筋肉もエネルギー源として使ってしまい、脳がわざと筋肉量を減らすのです。
では、寝たきりでなければ筋肉量が維持できるのか? というとそれは"NO"です。悲しいことに、筋肉は1つ年をとるごとに、1%ずつ減っていくといわれています。
下肢の筋肉は特に減りやすく、筋肉量のピークは20歳頃で、そこから1年に1%ずつ筋肉が減っていく計算です。すると、50歳には30%減り、70歳では半分になってしまうことになります。筋肉量が体力と比例するという考え方をベースにすると、70歳の人の体力は20歳の人の半分しかないということになります。
70歳でも体力がある人と、ない人の決定的な違い
ここまで残念な話しかしてきませんでしたが、絶望する必要はありません。筋肉は何歳であっても、鍛えて復活させられるという側面があるからです。特に骨格筋は、年齢にかかわらず、筋トレで刺激を与えると、やがて筋肉量が増え始め、筋力も高まっていきます。これは朗報ですね。
体力を線香にたとえると、努力しだいでは、燃え尽きそうな線香でも、長さを継ぎ足せるということです。
70歳の体力は、20歳の人の半分、という話をしましたが、70歳でも若い人と遜色がないほどの体力がある人もたくさんいます。そういう人は、アクティブに生活をしているだけではなく、ケガや病気になりにくいし、仮になってしまったときでも回復が早いという特徴があります。
70歳でも体力がある人と、ない人の決定的な違いはどこにあるのか、それは再三お伝えしていますが、「筋肉量の違い」しかありません。ですから、早期回復、再発の防止のために私のクリニックで行っているリハビリでは、筋肉をつけてもらうことを主目的とした運動療法に重きを置いています。
しかし、ご高齢の患者さんのなかには自分で運動するのはおっくうで、マッサージなどの心地のよい施術のみを受けたがる方がいます。
マッサージは血行をよくしたり、筋肉の緊張をゆるめたりするので、一時的には症状が楽になることも多いです。しかし、マッサージで筋肉が増えることも、筋力がつくこともありません。心地のよい施術だけでは体力をつけることはできないことを心にとめておいてください。
筋肉はほかの臓器とは異なり、筋トレなどの運動をすれば、いくつになっても成長するという特性があります。つまり、あなたの意思で、老化に抗うことができるのです。
「筋トレ=きつい、つらい」というイメージ
・何もしなければ70歳の体力は20歳の半分になってしまう
・筋トレで筋肉を増やせば体力もついてくる
・筋肉は何歳からでも増やすことができるので、あきらめてはいけない
ここまでの話をまとめてみました。
「よし! さっそく筋トレを始めよう!」。そう思えましたか?
心は動いたけど、「うーん……」とモヤモヤしていませんか? そんな方は「筋トレ」という言葉に、マイナスのイメージがあるのでしょう。
最近ではスポーツクラブのCMなども増え、市民権を得た印象のある筋トレですが、日々患者さんと接していると、筋トレに対して、まだ「こんなイメージ」を持っている方が多いことに気づきます。
筋トレ=きつい、つらい
こんな連想をするようです。筋トレという言葉だけで、尻込みしてしまう方が多いのです。
自分でやるのは嫌だな……誰かがやってくれるのならいいけど、と思うかもしれませんが、筋トレは自分でやるしかありません。
「アリとキリギリス」の童話はご存じでしょう。アリは、冬に備えて食べ物をコツコツと集めていたので、厳しい冬を生き延びることができます。一方、働かず趣味のバイオリンに興じていたキリギリスは――。
気合ゼロでもできる「スゴイもも上げ」
止められない加齢に備えて、コツコツと筋肉を蓄えなければいけない。もちろん、頭ではわかっているはずです。でもやはり、「筋トレ=きつい、つらい」というイメージがありすぎて、やる意欲がわかない。そこで、私が目指したのは、とにかく「きつい、つらい」というイメージを覆すこと。そして、確実な効果を感じられる方法であること。
そしてたどり着いたのが、「もも上げ」です。「もも上げ」と言っているので、手じゃなくて、ももを上げるんだろうな、ということは想像できるでしょう。イメージは、その場で足踏みをすることに近いかもしれません。足踏みなら、きつい感じはしませんよね?<にすぐれた体力アップ効果が期待できます。
もも上げは、「運動をするための体力」を満たす条件である、心肺機能、筋力、バランス能力、柔軟性、敏しょう性のすべてを鍛えられる運動です。なかでも、通常の筋トレでは難しい、心肺機能を高める効果も期待できるところが大きなメリットといえます。
これだけでも十分ですが、さらに楽に、さらに安全に、さらに効果を出せるように編み出したのが、「スゴイもも上げ」です。
詳しいやり方は、記事の最後にご紹介しますが、「1回につき30秒しかやらない」「壁に寄りかかってやる」「ももを上げたところで1秒止める」こんな方法です。
まずは、足腰が弱っている患者さんの何人かに試してもらいました。最初、ももを上げるのに苦労される方もいましたが、やり方で迷う方は誰もいませんでした。そして、終わった後、「こんな簡単なことでいいんですね。でも、しっかりやると、ちょっと疲れますね。これからも、がんばってみます」と、おっしゃっていました。
これからも続けられると思えるほど簡単、でも、ちょっと疲れるということは弱っている筋肉をしっかり使えているという証拠。
「このもも上げは、イケる――」。そう確信した瞬間でした。
スゴイもも上げは、「1日1回30秒」行います。30秒の間に、左右のももの上げ下げをします。
30秒の間に、何回やればいい、という決まりはなく、ご自分のペースで、なるべく高くももを上げることをくり返します。
「1回30秒」が根性論にならないギリギリのライン
30秒しかやらないなんて……。あまりに短い時間なのでその効果を疑っている方も多いかもしれません。でも、体力をつけるには、きつい運動を長い時間やらなくては効果がないという考え方は間違いです。
根性論は必要なく、継続して行うこと、つまり習慣にすることがもっとも大切だからです。そのためにも、ハードルは低いほうがよいのです。もし、楽々とできるようになったら、「1回30秒」を何回かやることをおすすめします。
どうしても、すぐにやせなければならない切羽詰まった理由がある! そんなときは、根性できつい運動に取り組めるかもしれません。成果は、体重計や洋服のサイズなどで客観的に確認できます。
いっぽう、体力は器械などで測ることはできません。いくらきつい運動をしたとしても、体力がついたのかどうか客観的に確認することは困難ですし、なによりも、きつすぎると続きません。そのため根性論を持ち出しても意味がないと思っています。
つまり、きつすぎて挫折してしまうくらいなら、短時間で適度な効果が得られる運動を、長く続けたほうが体力づくりにはずっと効果的というわけです。
これは医師として、またトレーナーとしての私の経験値によるものですが、30秒を超えると、どんな運動でも「長い、きつい」と感じる方が多いようです。「1回30秒」というのが根性論にならないギリギリのラインなのです。
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