大学病院から町のクリニックまで、さまざまな医療機関で処方される漢方薬。身近な存在であり「西洋薬よりもゆるやかに効く」というイメージを持つ人も多いが、なかには即効性のある漢方薬も少なくないという。生命科学者の仲野徹氏が、人気鍼灸(しんきゅう)師で治療家の若林理砂氏に「漢方薬の効き目」について尋ねる。※本稿は、仲野徹、若林理砂『医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと』(左右社)の一部を抜粋・編集したものです。
漢方薬は「効かない」は勘違い
即効性のある漢方薬とは
仲野 満を持して漢方薬のことを聞いてみたいです。世間で抱かれる漢方って「ゆるやかに効く」「副作用が少ない」というイメージがあります。一方では「ゆるやか」どころか「効かない」と思っている人もいるかと思います。これは実際どうなんですか。
若林 実は即効性があるものもけっこうあるんです。
仲野 自分の経験で言うと、五十肩のときに飲んだ独活葛根湯(ドッカツカッコントウ)と、二日酔いのときの五苓散(ゴレイサン)。このふたつはよく効きました!あくまでも、青汁のテレビコマーシャルみたいな「個人の感想」ですけど。
多くの人が悩んでいる
「気象病」にも効果アリ
若林 五苓散は本当に便利で、いろいろな症状に使えるんですよ。そもそもは嘔吐(おうと)・下痢のときに使う薬で、子どもの場合はファーストチョイスとして処方されることが多いです。
仲野 嘔吐や下痢そのものが治るんですか。
若林 はい。水分の分布を変える薬なんです。
仲野 しかし、西洋医学を学んだ者としてはですね、それまたわかりにくい話なんですよ。「水分の分布を変える」ってなんのこっちゃねん、って。二日酔いに効くことは身をもって経験してるけど、その理由が水分の分布が変わるからと言われても、どういうことなんや?と思ってしまいます。
若林 二日酔いに関して言えば、吐き気などの中枢神経系の酔いというのも、おそらく内耳がむくんで引き起こされているんですよね。それが改善される。
あとは最近よく言われる「気象病」にも効果があると言われています。気象病というのは、内耳にある気圧を感知するセンサーによって自律神経系が異常を起こして、めまいや耳鳴り、吐き気が起きてしまう症状です。ですから、水分が一部分に溜まってしまうのを五苓散によって平均化するという考え方だそうです。
仲野 不思議やなあ。実際に効く患者さんもおられるんですか?
若林 けっこう効きますね。慢性痛が発生しやすくなる状況、たとえば気圧が変動してるときに、まず前駆症状が出ますよね。なんとなく目の前がチカチカするとか。そういうときに五苓散を服用すると、それ以上症状が悪化せずに済みます。気圧低下のときには脳の血流量も異常に増えたりするらしく、それを抑止する作用もあるようです。
仲野 軽い硬膜下血腫まで治るぐらいやから、信じておきます。
仲野 じゃあ、気象病の人は、天気予報で前線が通過するとか言われたら、五苓散を前もって飲んどこうとかできるわけです?
若林 できますね、ほとんど副作用もない薬ですから。
便利な漢方薬「五苓散」には
東洋医学の神秘が詰まっている?
若林 実は五苓散は「西洋医学」的な説明がされていますよ。科学的に作用機序が明らかになっている漢方のひとつでもあります。漢方メーカーのウェブサイトなどにも、「五苓散が、細胞内の水の取り込み口であるアクアポリン4に働きかけ、細胞内の水分量を調節していることがわかっています」と書かれています。
仲野 「アクアポリンに効く」「水の分布を変える」、言われればそうかな、と思ってしまいます。でもね、このふたつは直接的に繋がらへんのとちゃうやろか。
若林 そうなんですか(笑)。
仲野 そうそうそう(笑)。水という共通項があって、なんとなく関係するように思わせられるけどちょっと無理かと。アクアポリンというのは、細胞膜にあって水を通すタンパク質です。その調子が変わったぐらいで、全身の水バランスが変わるなんてことは考えにくいでしょう。
若林 たしかに、細胞が分化して組織となり、いろいろな臓器になっているのに、なぜ全身に一定に効くのかわからないですよね。「効いた」というのも大雑把な見方で、脈が普通にもどったり、舌の色がよくなったら効いたことになる。そういう改善点が見られたら、その薬を続けると症状も改善されていく。
仲野 薬ですから、分子レベルで効いてることは間違いないわけです。科学的に考えて、それ以外の効き方はありえない。これは絶対的な真理です。もしかしたら、いろんな種類の細胞にちょっとずつ違う効き方をしてるんかも。あるいは、アクアポリンにも効くけど、それだけじゃなくて、多くの作用点のうちのひとつがアクアポリンなのかも。
若林 そうかもしれません、ピタゴラスイッチみたいな効き方をする。
仲野 でも、それってトリッキーすぎるな。面白いけど。
仲野 鍼やお灸と同じで、漢方もどう作用してるかよくわからんところがあるってことですよね。ほんまに不思議でたまりません。
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